知ってる？C組の梅原さんと切原くん、昨日一緒に帰ってたって。
えー嘘お、あのふたり、やっぱり付き合ってんのかな〜。ショックかも。
でも悔しいけどお似合いだよね、梅原さん美人だし。うらやましい〜。
言えてる〜。マネージャーと選手かあ、漫画みた〜い。




聞こえてきたクラスの女の子の会話。
そんな声を聞くたびに、わたしの胸の奥はチクリ、と針で刺したような痛みを覚える。
けれど表面には少しも出さず、わたしは同じ委員会である比村くんに放課後の委員会の集まりのことを告げた。

話題の人物、切原赤也はわたしの幼馴染であり、好きな人でもある。
もっとも、幼馴染といっても、中学に上がってからはほとんど会話をしていない。
せいぜいすれ違ったら挨拶をする程度で、呼び方もお互い「」と「切原」と変わってしまった。
赤也はテニス部のエースであり、女子からの人気も高い。
････むかしは、いじめっ子で生意気で、チビの赤也なんて言われて女子になんて相手にされなかったのに。

女子と男子という壁は、思春期である私たちにとって、想像以上に分厚かった。





「どうかした？さん、なんかぼーっとしてるけど･･」
「あ、ううん！なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけ」




だから心配しないで、と笑顔で比村くんに言うと「･･ならよかった」と、比村くんも微笑んでくれた。
彼、比村くんは委員会を通して仲良くなったけれど、温厚な性格とキリッとした涼しげな目元とスラッとした長身が印象的なさわやか君で、
実は隠れファンが多いってうわさ。でも好きになっちゃう子の気持ちはものすご〜くわかる。
好きじゃなくたって、比村くんみたいな人に微笑まれたら、ドキッとしてしまう。




「そういえばさんて、緑川と同じクラスだったよね？」
「うん、そうだけど」
「俺あいつに本借りててさ、悪いけどこれついでに返しといてくんないかな」
「あ〜全然いいよ！緑川くん席近いし」
「サンキュー！あいつすぐ休み時間どっかいくからつかまんなくてさ。助かるよ」




そういうと、無意識にか、比村くんはわたしの頭にポン、と手のひらをのせた。
その手はまるで妹をあやすような感じだったけれど、わたしはびっくりして比村くんを見つめてしまった。




「あ、悪い･･。俺、妹にいつもこーするから、なんか癖で･･さんちっこくて可愛いから、つい」
「え、」



照れたように目線を逸らし、顔を赤らませる比村くんに、思わずつられてわたしまで赤くなってしまう。
比村くん･･･天然でこうゆうことするからモテるんだろうな･･･
この時のわたしは、他人事のようにそんなことを考えていた。










*********












「･････　　　　さん、」










俺の耳に聞こえてきた「」というキーワード。
その単語が聞こえてくるたびに、俺は無意識にその声のほうに意識を集中させてしまう。




目に入ってきたのは、同じクラスの比村と･･･。
教室のドアにたって、楽しげに話す（ように俺には見える）二人をみると、心の奥がぎゅっと潰されるような間隔に陥る。
少なくとも、今の俺とは、ああやって二人で笑いあうことは無い。
廊下ですれ違うときに、挨拶をする程度で、昔はよく行ったの家にももう何年も行ってない。
今では「」なんて、他人行儀に話をするようになってしまった。



･･･とは言っても、こんな風にとの距離をもどかしく感じるようになったのは最近で。



最近までテニスのことしか頭になかった俺は、恋愛のことなんてほとんど、･･いや、まったく頭になかった。
それなのに最近、マネージャーの梅原が丸井先輩のことが気になるとかで俺に相談してくるようになったのがきっかけで、
（「赤也は好きな人いないの？あたしばっか相談して恥ずかしいじゃない！」とかすっげー勝手なこと言われた）
気が付けばの姿を目で追うようになっていた。

に対しては、避けている訳でも、気まずい訳でもないが、なんとなく昔のように気軽に話すことができない。
それは、俺からというわけでも、からというわけでもなかったが、いつの間にか、自然とそうなってしまっていた。





そんなことを考えながら、俺は再度と比村のほうをチラリと盗み見た。
と、「あ、」と反射的に間抜けな声がでてしまう。







比村が、の頭の上に手をのせていた。







「　　　　　　　　　･･ちっこくて可愛いから、つい」







少しびっくりしながらも、顔を赤らめて笑うと、の視線の先にいる比村の姿に、目が釘付けになる。
周りからすれば恋人同士のようにも見えるふたりに、心の底から嫉妬した。
あそこにいるのは、俺のはずなのに。他の男にそんな顔して笑うんじゃねえよ、馬鹿。


そのあとは、もう無意識で気が付けば俺はの名前を呼んでいた。
それも、クラス中に聞こえるようなでっかい声で。






「　！」







「え･･･あ、かや？」
「今日、帰り一緒に帰るからな、忘れんなよ！馬鹿！」
「ば、馬鹿ってなによ！･･･ってゆうか、声でかすぎ！そんな大声でいわなくても聞こえるってば！」






が俺だけを見て、真っ赤になって怒鳴り返してくる。
俺に声がでかいとかいいつつ、自分だってすげーでけえ声で話してるのに気づいていないらしい。
隣では、比村が少しびっくりした顔で俺とを交互に見つめている。ざまあみろ！







素直になれない二人









２００９．０９．１２
＊幼馴染っていいですよね。